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2005年10月29日 (土)

じつはつじ

授業と授業の合間。
いつも誰かが僕の鞄の中から僕の教科書を勝手に取り出し、そして熱心に読み耽っている。


僕は高校受験に合格した時、何故か頭を丸めたという経験がある。
理由は、ない。
ただ、一人の友と約束していたのだ。
二人一緒に受験に合格したら丸坊主になろうと。
なんじゃそれ。

で、めでたく二人は五分刈りになった。
その友人とは、別の高校に進学した。
今考えても全く意味が分からない。同じ高校に行くならともかく。


高校で初めての授業の日、僕にあだ名が付いた。「つじ」と。
「つじ」が誰のことを指しているのかいまだに僕は解らない。丸坊主の頭が広島かどこかの「辻」という野球選手に似ていたらしい。

ともあれ、その日以来一年間僕は「つじ」と呼ばれた。たまに訛って「つっぢー」とも呼ばれたりした。
そして僕のキャッチフレーズは「実は辻」だった。上から読んでも下から読んでも「じつはつじ」。
黒板に大きく じつはつじ と書かれたりもした。一筆書きで書けるのだ。まるでへのへのもへじみたいな感じの書体になる。
いや、お断りしておくがそれはいわゆるイジメではない。
そのクラスはなかなかユニークな奴が多かったから僕のあだ名は地味な方だったのだ。確かに、地味だ。


二年になる時クラス替えがあった。
うちの高校ではクラス替えはこの一度きりである。
高校は工業で、一年間は電気から機械からその他諸々の工業全般を学ぶ。
一年生の間に色々と考えて己の専攻を決める。そして一度決めたら後戻りは出来ないわけである。
僕が選んだのは「設備工業科」という特殊な科だった。その科を持つ高校は全国でも数校しかなかった。
だから教科書など文部省直結である。
その科が、来年度で廃止になるらしい。寂しい限りである。

それはともかく、二年に上がると同時に「つじ」というあだ名は自然消滅し、いつも通りの「大ちゃん」に戻った。
「つじ」という訳の分らないあだ名がどうにもしっくり来なかったので僕はホッとした。


しかし「つじ」は生き残っていた。


僕は物心がつく前から本に悪戯書きをする癖があった。
小学生の頃から、社会の教科書の人物写真などは全て鼻血を垂らしているか髪型を変えられているかさもなくば砲丸が頭にメリ込んでいた。
それから白黒のマンガに絵の具で着色したりして親父に怒鳴られたという懐かしい記憶もある。
それは親父が大事にしていた手塚治虫先生の火の鳥のA4サイズの単行本だったからだ。

さて、その悪戯書きであるが高校生にもなるとそれは高度化し、歴史の教科書の人物画へのちゃちな髭やサングラス等の付与などでは満足できない自分がいた。
勿論全てに何らかの書き込みがあったが。
総じてもっとエキセントリックなものに進化していたのだ。
今でも読み返すと我ながら爆笑してしまうものも数多くある。


そうこうするうちに既存のものに悪戯書きを付加するだけでは飽き足らず、僕は教科書の上下の余白部分に連載マンガを描き始めた。
そしてその主人公が「つじ」であった。
ただし「つじ」は丸坊主ではなく、矢吹丈の髪型であった。
タイトルは、「あしたのつじ」。コピーライトは「つじカンパニー」。
なんじゃそれ。アホか。


で、授業中に僕は執筆するのである。
勿論、授業のノートは、取れるはずがない。
だから試験前などはそのマンガの購読者である友達の力を借りるわけである。

ギブ&テイク である。


そして最新号を読み終えた友はいつも
 「大ちゃん、つじはこれからどうなるんだ?」
と真顔で聞いてくるのである。

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