« 前夜 | トップページ | 私は、剃る派。 »

2005年11月 8日 (火)

次こそといつも思う

信号待ちの時、おじさんと目が合った。


バスを降りると大抵僕はすぐ煙草に火をつける。癖になってしまっている。
公共交通機関の車内は完全に禁煙だから降りた途端に反動が来るのだ。

で、バスを降りてすぐの信号で待っている時。
おじさんはいつからその場所に立っているのだろう。散歩の途中だろうか。
作業服のような風合いの格好をしている。なぜさっきの信号で渡らなかったんだろう。
おじさんは、ここで幾つ信号の黄色を見ていたのだろう。


そして僕が煙草に火をつけるのを見て、おじさんは僕に近寄り声をかけてきた。
「火、いいですかね。持ってなくて」
おじさんは少しオドオドした感じの笑顔を作っていた。

彼は火を借りるためにここで誰かがバスから降りてくるのを待っていたんだろうか。そんなこと僕には知る由も無い。
平日の夜、普通大体バスを降りたら後はまっすぐ家に向かうだけだ。その中のどれだけの人がバスを降りた途端に煙草に火をつけるのだろう。きっと多くは無いと思うのだけれど。
それから持ってなくて って忘れたわけじゃないような含みを感じる。はじめから誰かに火を借りるつもりで出かけてきたように受け取ってしまう。なんか変だな。
夜道でもあるから変に警戒心が増長してしまう嫌いもあったかも知れない。
でもまあ、いいけどさ。火ぐらい。
そう思いながらも何かおじさんに他の意図がありそうな気配を感じてしまった僕はちょっと腰が引けていた。


幾ら使い捨てのターボライターとはいえ風が強かったから手で囲ってあげればよかった。
僕は偉そうに片手でちょっとだけ火をつけてあげてさっさと踵を返して歩き出してしまった。
後ろで、おじさんが火種を絶やさないように前屈みになっている姿を想像した。
おじさんはただ単に、きっと散歩の途中でライターを忘れてきてしまったことに気が付いたのに違いない。
僕はその時に確信した。


火が付きかけの煙草を無理に焚きつける時の味は決して美味しくない。
見ず知らずの気弱そうなちょっとおかしな雰囲気のあるおじさんではあったが、そんな思いをさせてしまったことに僕は少し後悔し、自分の傲慢さを恥じた。

おじさん、今度目が会った時こそ。

|

« 前夜 | トップページ | 私は、剃る派。 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 次こそといつも思う:

« 前夜 | トップページ | 私は、剃る派。 »