忘れ物
「おっおっおーっ」と言って誰かが背後から駆けて来る。
「わっわわっ」と言って僕はビクッと振り返る。
それはオッサンであった。
「ちょっと」か何か言いながらオッサンは指を突っ込もうとする。咄嗟のことでわけがわからないがこのオッサンどうやら気が動転しているようだ。
負けじと僕は先に指を突っ込む。何故ならそれは僕の当然の権利だからだ。
さすがに気が引けたのかオッサンは手を引っ込める。当たり前だ。何考えとるだオッサン。
でチャラチャラという音で僕の手の中にあるつり銭が事実30円しかないことをオッサンは確認する。
僕じゃない。
オッサン、遅かったんだね。
どうしました? と聞くまでもなくオッサンは照れ隠しするみたいに独り言のように言う。
「さっき1000円で1個だけ買ったんだよなあ」
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