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2006年4月 7日 (金)

無錫旅情

上海虹橋空港に降り立った時。


大きなスーツケースを引いて、僕はタクシーを待っていた。
少し離れた所から何やら怪しげな中年のオジサンが僕を見ていることに気付いた。そして案の定、僕に近寄り声をかけてきた。
「どこ行くのですか。送りますよ」達者な日本語ではあったが、どこか造られた様な印象を僕は受けた。
「日航龍柏(ニッコウロンバイ)ホテルまでです」と僕は答えた。
「それならすぐだよ。送りますよ。大丈夫。安いよ」とオジサンは言った。
事前に調べておいたから近いことは分かっている。まあ、いいか。近いからぼったくられても知れてるだろうし。で乗ることにした。
「こっちに車あります」少しオジサンの車まで歩いた。このオジサンは何故タクシー乗り場に停めないのだろう。やや疑問に思ったが何しろ初めての上海だ。何が起こるか分からないのも面白い。こういうこともいい経験になるに違いない と妙に納得した。

車の助手席には人が居た。オバサンだ。誰だろう。でもそのオバサンはそのおじさんの奥さんなのだと何故か僕は直感的に理解した。
そしてそのひいき目にもとてもタクシーとは呼べないその車に乗った時、あることに僕は気付いた。
両替をすることを忘れていたのである。財布の中には仮払いで支給された日本円しかない。車はすでに動き出している。どうしよう。でオジサンに話してみた。
「両替を忘れちゃったんです。日本円しかありません」
「大丈夫よ。両替今出来るよ」とオジサンは言う。ああそうか、そういうことも出来るんだ。ホッとした。
で僕はとりあえず一万円を渡した。現地の通貨にしてみれば結構な大金である。レートは事前に調べてあった。だからもしそのオジサンが誤魔化していい加減に両替をしたらド叱ってやろうと僕は思っていた。
意に反して、両替は適正だった。なんだ面白くない。見た目と違って意外といいオジサンじゃんか。
オバサンは日本語が分からないように見える。ニコニコ笑っているだけだ。

程なくしてホテルに到着する。礼を言って僕はそのオジサンの言い値の額を払った。たった今両替してもらったばかりの人民元で。
上海にはとりあえず一泊の予定だ。明日は汽車に乗り蘇州そして無錫まで行く予定。僕の初めての中国出張は、無事に幕を切って落とされたようだった。

問題が発生するまでは。


そして事件は翌朝日航龍柏ホテルをチェックアウトする時に起こった。
僕は精算書を見て所定の額を現地通貨で支払った。
するとカウンターの上に並べられた僕の出したお札を見るなりキャッシャーの女性が怪訝な表情をしていることに気付いた。
そして彼女はこう言うのである。
「お客様、この金は外国人の方はお使いになることが出来ません」

一瞬、僕は彼女の言うその意味が分からなかった。
そして気付いたのである。

それは今より遡ること15年以上前のことである。その当時中国には二種類の通貨があった。
人民元と兌換券。
中国人用と外国人用のお金が二種類あったのだ。単位は同じ「元」であったのだが。
どうやら初めての中国出張で、僕はいささか舞い上がっていたようである。それをコロッと忘れていたのだ。

「すみません、空港で両替を忘れてしまったのでタクシーで両替して貰ったんです」と僕は答えた。
「そうですか。お客様、申し訳ございませんがこの人民元は中国に住んでいる人しか使うことは出来ません。お支払いはどのようになされますか?」気の毒そうな(少なくとも僕にはそう見えた)表情をして彼女は僕に言ってくれた。
仕方なく僕はカードで支払った。

そのあと彼女はある事実を僕に教えてくれた。僕が最も知りたくなかった情報を。諭すように。
「人民元と兌換券ではエクスチェンジレートが全然違います。その差は30%程です。また日本円は裏ルートで高くやり取りされているのです。ひっかかりましたね」 と。


くそー。やられた。
てんで僕はおのぼりさんだったのだ。
どうりで、あのオヤジ。終始ご機嫌だったわけだ。助手席のオバサンのニコニコ顔も今となっては途轍もなくにっくきものに思えてくる。


そんな感じで、僕の無錫旅情は始まった。
(続く・・・次回はまた気が向いた時にでも^^)

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