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2006年8月 1日 (火)

ゲバ戦記

「げば」と自分でも吃驚するくらいの音が出た。

我が身に何が起こったのか瞬間的に覚る。無意識に舌を出し、ぶるっと身体を震わせ僕は歩道の中央で立ち止まってしまう。すぐ脇を歩いていた女性がささっと僕から距離を置いた。
両者とも不可抗力以外の何物ではないから慌てたのはお互い様であろうが、僕から解放された奴は挨拶もなく置き土産に「びん」という音のみを残し一目散に去っていった。


帰宅する時。
桜通りを東へ歩く。少し残業したせいで道行く人の数も疎らになっている。この時間になるとアスファルトの上でも蒸し暑さは和らぎ、心地よい風が首元を掠めたりしてくれる。
で歩きながら一服しようかなと思い煙草を口に運ぼうとしたその刹那。
その心地よい風に乗って唐突に奴は来た。

煙草をくわえようと僅か数ミリだけ開いていた僕の唇へまっしぐらに奴は突入し、そのまま勢いに任せて僕の口腔奥深く、のどティンコの辺りまで一気に到達する。全くの無防備であった僕はそのあまりの唐突さに対処することなど到底敵わず不覚にも「げば」と発音するに至る。
大きさからいってこいつは、たぶん、ハエのたぐいだ。進入速度からいってアブだったかも知れぬ。とにかく目にも留まらぬスピードで奴は僕と邂逅し、そして去っていった。
その後そこには喉に指を突っ込み必死に「カーッかはーッ」と痰を切らんとするような不快と感ずるに近い音を出し続ける一人の涙目の青年が残された。


今後もし道端で突然何の前触れもなく大仰にげばと咳き込み始めた人を見かけたら、そっと同情してあげようと思う。

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