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2006年9月14日 (木)

大きなお世話

ぼくはいつも栄のセントラルパークを通る。
仕事帰りのこと。

尿意を催したので公衆トイレに入る。
そこでぼくは、ある光景に出会う。
車椅子に乗った方が、小便器の前に居たのだ。


彼は見るからに物凄い苦労をしながら体勢を整えていた。
何もそれは、別段珍しい光景ではない筈だ。
ただ出し抜けにその場に出くわしてしまったぼくは一瞬(ほんのコンマ何秒だったと思う)だけ動きを止めてしまったことは事実だった。
トイレの中は混雑していた。ただ、彼の隣りの場所だけがポッカリと空いていた。個室になっていないことが残酷だと思った。
そしてぼくは、彼の隣に並んだんだ。


本当に彼は苦労しているようだった。大きい息遣いや横目で見える光景だけでもそれが充分に窺える。きっと彼は随分前からここで苦労していたのではないか。彼の動きからそれが判る。


何か手を貸そうかと思う。
でも「お手伝いしましょうか」という言葉が喉に痞えてどうしても出て来ない。
ぼくは躊躇する。
物凄く、激しく躊躇してしまう。


何故なら彼は一人でここに来ている。人ごみの中に。介助する人はいない。ならばそれは彼の意志の筈だ。
こんな事態は充分想定した上での行動である筈であるし、彼にしてみればごく普通の行為であるに違いない筈だからだ。
見るに見かねて手を貸すといったぼくの薄っぺらい善意など疎ましく感じるかもしれない。大体どう手を貸せばいいのかも解らない。そんな経験がないからだ。
そこに差別意識や善意の押し売りを彼は感じるかもしれない。こちらにはそんなつもりは100%無いにしても。
彼がどう感じるかはぼくには解りようもないのだ。同じ立場に立たない限り。悲しいけれど解る筈がないのだ。


結局、ぼくは何もしないことに決め、その場を後にする。


帰宅後、妻にその話をする。


誰かに話さないと、ぼくはその時感じた罪悪感と自己嫌悪の様なものからから逃れられなくてどうしようもなかったからだ。

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