しげるさん
ここのところ暑いのでちっともクールダウンどころかヒートアップにしかならないのであるが、それでも仕事を抜け出しての一服は欠かせないのである。
場所は東西に走る桜通に面した丸の内オフィス街の中の一角。
そんな時ここは同様の目的を持った同志の集うオアシスとなる。ただし前述の通りちっともクールダウンにはならないが。
ふと通りを見ると道路工事をしている。
片側3車線の中央1車線をつぶし、ラインの再マーキングをしているようだ。ただでさえ暑いのに焼けたアスファルトの上に熱いラインを引きなおす仕事をしなければならないなんて本当にご苦労様でございますと声援を送りたくなる。
で「工事中」と大きく書かれた看板を荷台に載せたトラックがハザードを焚いて中央車線に停車している。そのトラック後部の足場に乗っかり、旗を振っているおじさんがいる。
歳の頃は50代後半かもうちょっと上くらいか。
見るからに真剣だ。そりゃそうだ。中央車線で迫り来る車を脇に誘導するという行為は慣れなければ相当の恐怖を伴う行為に違いないからだ。
これだけ暑いと朦朧として突っ込んでくる車がいないとも限らない。さらに後方の作業員の安全も須らくこのおじさんの旗振りという誘導作業に懸かっている。
まさに命懸けの仕事だ。男の仕事だ。
それにしてもおじさんは凄い形相だ。遠方の一点を睨んでいる。仁王立ちだ。
腕の振り具合に一点の乱れも無い。実にコンスタントで一切無駄の無い動きだ。
よく日に焼けている。仕事焼けだ。男の顔だ。
ヘルメットを目深にギュッと被り、そこから覗く目は猛禽を思わせるが如くの眼光だ。仲間の安全を守るためには妥協は許さない、そんな男のいい顔だ。
プロだ。
このおじさんは紛れもない旗振りのプロだ。
一服が終わる。
おじさんを見る。
相変わらず一点の迷いも無い動きである。
もう一服しようか・・・このおじさんをずっと見ていたい。
このおじさんの仕事にかける執念を。
この男の生き様を。
このままずっと。
もう一服点ける。
僕はおじさんを見る。
相変わらず一点の迷いも無い動きである。
腕の振りの高さもスピードも一糸乱れない。
この人本物だ。プロ中のプロだ。
一服が終わる。
僕はおじさんを見続ける。
信号で車が止まっている時だろうが流れている時だろうがお構い無しだ。
一心不乱に腕を振り続けている。
ちょっと待て。
ちょっと待てよく見たらこのおじさん人間じゃないぞ。
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