深海のYrr
ここ数日。
来ていた。かなり。
一旦読み始めたら最後、読了するまで僕の興味はこれ以外に何もない状態だった。凄い小説だ。
この気持ちを誰かと分かち合いたい。だがそれにはこれを読破することが前提条件となる。
帰りのバスの中での時間潰しに必要な本を探している時だった。
大袈裟にディスプレイされた新刊文庫のコーナーにそれは並んでいた。
まず、帯に惹かれた。瀬名秀明さんの名が目に飛び込んできたのだ。そこには『瀬名秀明氏(作家)驚愕』とあった。
僕にとっては理由としてはこれだけで充分だ。
これは間違いなく買うに値する。この際価格など関係ない。反射的に上巻を手に取る。
上下巻かと思いきや後日上中下巻の超大作だと知ることになる。こうなるとちょっと価格も関係してくるがもう止まらない。止めようがない。
バスに乗り込み着席し、親指を舐め、頁を捲る。
この瞬間が堪らない。チビリそうな感覚だ。
翻訳ものによくある主要登場人物一覧の頁を見る。読むのではない。あくまでも見るにとどめておきたい。何故なら後で何度もここに戻ってくる予感がするからだ。実際その通りになった。
だが図らずもそこに記述されているある人物の肩書きが目に入ってしまう。”SETI(地球外知的文明探査)の研究員” とある。
…何だこれ。アカン、やっぱりヤバいぞこの小説。プンプンにおうぞ。
どうしよう、これは間違いなく僕のストライクゾーンど真ん中だ。サイエンスフィクション好きの。
ストーリーや詳細についてはここでは書くまい。
それにしてもあまりに映画的な小説だ。実際に物語の中に僕の大好きなSF映画のタイトルが登場人物の科白として幾つも登場する。その場面を表すにこれ以上ないというくらいの的確な科白として。その一点においてこの物語が途轍もないリアリティを持って僕に迫ってくるのだ。中でもジョディ・フォスターのあの映画が登場したことはなによりも嬉しかった。
訳者あとがきから少しだけ引用もさせて戴きたい。この一文が全てを物語っていると思うからだ。
『本書は、科学が少々苦手の読者もすっかり科学好きに変えてしまうほどの力を秘めている。それは、物語が最新の科学に裏づけされているからであるのは当然だが、なによりも第一級のエンタテイメント小説であるからだ』
またここには現代という時代が抱えるあらゆる問題が包括されている。個人のアイデンティティの問題から世界規模の環境問題、さらには宗教に至るまで。
そこには絶対神を是とするキリスト教の限界を示し、あらゆる生命との共生を根幹とする仏教の絶対の法則と生命科学、そして宇宙を貫く無限の生命の可能性をも説いている。
ドイツの作家フランク・シェッツィングの作品。
ドイツの小説など読むことはおろか手にすることさえ初めてだ。
文体も非常に好みだ。というより大好きだ。
きめ細かくそれでいて一切無駄のない人物とその背景の描写、同時進行で幾つもの場面が交錯するスピード感。
映画化も決定しているようだ。これ以上ない程の映画的な小説をどんな映像で再構築するのかこれもまた楽しみ。
事実作者自身無類の映画好きだそうで、登場人物は実際の俳優がモデルになっているようだ。そういう感覚も面白い。
それにしても。
これほどの幸福感を味あわせてくれる小説なんて滅多に出会えない。
読んでいる最中も、読み終えた今も。その感覚だけは一貫して変わらなかった。
読んでよかった。
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コメント
初めまして、お邪魔します。
深海のYrrを検索して、たどりつきました。
私もレノすけさんのように、心震ていますっ!!
今日の帰宅途中の電車内で読み終える予定です。
たまらない作品ですよね。
またお邪魔します。
投稿: むっしゅ | 2008年7月 3日 (木) 18:23
むっしゅさん
こんばんは。初めまして。コメントありがとうございます。
まずはおかえりなさい。読了、お疲れ様でした(笑)
僕もこの記事を上げてから色々な書評をネット上で探しましたが、どうも賛否両論のようですね。まあそれだけ広く読まれている証左でしょうけれど。
どちらにしても、これだけ面白い作品を真正面から面白いと捉えられない賛否の「否」組の輩なんぞ放っておけ~って感じですね。
とっても長い小説でしたけれど、それを感じさせない力強さがありました。このままいつまでも終わって欲しくない…みたいな。まあそれはそれで困りますけど(笑)
投稿: レノすけ | 2008年7月 4日 (金) 02:52
先日 ようやく 全巻読み終わりました この ブログを拝見させていただかなかったら おそらく いや絶対この本とは出会わない私でした 現在の我々人類のかかえている直面している現実に あまりにリアルで 特に津波の場面の描写など 映画を想像しながら 一気に進みました いたるところで 映画のCGの画面が浮かぶ 興味深い作品でした 宇宙にロマンを求めるのは 夢がありますが 深海にこんな恐怖が待ち受けている 人間の文明欲望にほかなりません結果なのですね 最近日本海溝の水深7703メートルの海底にシンカイクサウオという生物が発見されたり ノーベル賞も続々受賞の昨今 文明科学がいくら進歩しても 自然界には立ち受け出来ない人間の脆さを 痛感させられました しかし 私達には 愛 があります 上手く表現できません文章になりましたが 機会を与えて下さり 有難うございました
投稿: tsuneko.3 | 2008年10月14日 (火) 11:07
つね子さん
こんにちは。ありがとうございます。
読み切られたのですね。お疲れ様でございます。
僕の場合、なんと申しますかもうすっかり…筋を忘れてしまっている風情でございまして(笑)
コメントを読ませて頂いてああそうだった津波のシーンは物凄かったなどと思い出している次第でございます。
僕としてはエピローグが一番感動したのも思い出しました。
それにしても、僕のこんなブログから色々なものに興味を持っていただけるなんて本当に光栄です。
励みになります。ありがとうございます。
投稿: レノすけ | 2008年10月15日 (水) 12:42
科学が少々苦手の読者もすっかり科学好きに変えてしまうほどの力を秘めている それは 物語が最新の科学にうらずけされているからであるのは当然だが なによりも第一級のえんたていめんと小説であるからだ そんなふれこみで興味わいたのですが もうおわすれでしたか でも仕方ないですよね 毎日毎日心も時も動いているのですから その時その時を大切に 生きているのですもの それでよいとおもいます とにかく 前途洋々な貴方が 今後も
情熱的に ご活躍されることを お祈りします いつもお時間を煩わして申し訳ございません
投稿: tsuneko.3 | 2008年10月16日 (木) 00:30
僕はよく過去に読んだ本を引っ張り出してきて「読み返す」ことが多いのですが、半年後に読みたくなるものや数年後または十数年後に読み返すもの、様々です。
読んでいるその瞬間の自分の年齢や、その時置かれている状況で、捉え方が全然違ったりする感覚が大好きなのです。
その場合、筋を忘れてないと読み進めるのが結構つらいのです。
そういう時は折角読み始めたものでも放り出します。アカンこれまだ忘れとらん(笑)と。
ということで筋をすっかり忘れてしまうのは僕にとっては誠に都合のよいものでして。…言い訳がましいですが(笑)
投稿: レノすけ | 2008年10月18日 (土) 11:22