深夜の闘争(5)
この闘争にもそろそろ終止符を打たねばなるまい。
あっちの空が少し白んできている。
お義父さんも大便から帰ってきた。
最終手段だ。
冷蔵庫にマグネットで貼り付けてある専門業者に電話をするのだ。万策尽きた二人に残された唯一の切り札はもうそれしか残されていないからだ。何時間か前にさっさと決断しておけば良かったという考えが脳裏をよぎったが振り払った。俺達は素人なりに少なくともベストを尽くしたのだ。ねえお義父さん。白旗を揚げるのはなんとも不本意なことではあるが致し方ない。
あてつけがましいほど眠そうな声の先方さんに今までの一連の事情を説明し、じゃあ取り敢えず依頼しますと言う話にはなったものの先方曰く来れるのは早くて9時過ぎになるとのことだった。
いや実は9時ではダメなんだけども。事情が事情なので仕方ない。他の業者を探す気力も既に今の時点では欠片も残ってはいない。しょうがないけどお願いしますわ。
みんな、すまぬ。明日の朝は全員コンビニ排便確定だ。
結局、業者が来たのは10時近くだった。それがちょっと頼りなさそうな若い兄ちゃんで如何なもんかと思ったがまあそこはプロなんだからと無理矢理納得。
言っちゃ何ですが結構忙しいものなんですね。そんなに混んでたんでしょうか。他のお客さんで。よもやシンクロニシティであらゆる家庭でこういう現象が多発していたとでも。
まいいや。
この業者は作業に掛かる前に見積もりを提示するという触れ込みだったから割かし良心的なのかなという感じでお願いすることになったのだが、その見積り額は思いの外高かった。マジで高かった。ビックリするくらい高かった。
あなたホントにビックリしますよ?気をつけたほうがいいですよお客さん。軽はずみな考えでこういう業者をアンタ滅多に呼ぶものじゃないですよ。マジで。片手に近かったんですから。片手すよ片手。
内心、人の弱みに付け込みやがってこのクソガキ、という気持ちもよぎったものの(今はクソオヤジはこっちの方なのだ)こうして馳せ参じてくれたわけだし今更追い返すのも忍びない。遅刻されたのはかなりの減点だけど。
こういうの何て言うんでしょう、弱り目に祟り目という心境になってしまっているわけですよ。こういう場合。要は背に腹は換えられない状況を巧みに利用する業界なわけですね。こちらさん方は。切羽詰って連絡するわけですから。
で渋々涙を飲んで了承。高くついたなと。後悔してももう遅い。
まあいずれにしてもお願いすることになったのだから早速現場で我ら素人二人の奮闘を掻い摘んで説明する。
こちらの話もそこそこに。まあとにかく洗浄してみましょう。この高圧水で。兄さん自信満々である。そりゃそうだ。プロなのだから。
じゃやってもらいましょう。思い切り。やっちゃってください。
コンビニから帰ってきた子供達も興味津々作業を見つめている。
作業開始の約10分後、途方に暮れた表情をするのは今度は業者のお兄さんの方であった。
でしょ?
だから最初からそうなんだって。それで解決するならとっくの昔に解決してるんだって。素人とはいえ大人二人で必死に取り組んだ結果ってのは断じて捨てたものじゃないんだって。
見積もり通り満額払うからさ、早くやっつけちゃってくださいな。さあ。
さあ。
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